
※登場人物は全て仮名です。
新宿駅前のスタバで、私は友人の麻衣から人生を変える情報を受け取った。
「ねえ知ってる?ふるさと納税でドラクエグッズ買えるんだよ」
コーヒーを吹き出しそうになった。ふるさと納税といえば、実家の母が毎年カニを頼んで冷凍庫をパンパンにしているアレだ。あの制度で、ゲームグッズが手に入る?
「嘘でしょ。ふるさと納税って、食べ物しかないんじゃないの」
麻衣はスマホを私の目の前に突き出した。画面には、見覚えのあるメタルスライムのフィギュアが映っている。寄付金額2万円。
「これ、実質2000円で買えるの。控除されるから」
私の脳内で電卓が回り始めた。普通にAmazonで買ったら8000円する商品が、2000円?差額6000円。しかも税金が安くなる?
「ちょっと待って。それって...めちゃくちゃお得じゃない?」
「でしょ?私も先月知って、もう3個頼んじゃった」
その日の夜、私は人生で初めてふるさと納税のサイトを真剣に見つめることになった。
最初は軽い気持ちだった。メタルスライムだけ頼んで終わりにするつもりだった。
でも検索窓に「RPG」と入れた瞬間、世界が変わった。
ファイナルファンタジーのオーケストラCD全集。ペルソナの限定アートブック。テイルズオブシリーズの歴代主人公フィギュアセット。見たことないインディーゲームのパッケージ版。地方のゲーム会社が作った、聞いたこともないタイトルのRPG。
しかも全部、実質2000円。
「やばい、やばいやばい」
気づいたら、カートに12個の返礼品が入っていた。合計寄付金額18万円。計算したら、控除上限を4万円もオーバーしている。
慌てて削除ボタンを押す。でも、どれを削ればいいのか決められない。全部欲しい。全部、普通に買ったら高すぎて躊躇するやつだ。
結局、控除上限ギリギリの14万円分を選び抜くのに、朝の5時までかかった。
翌朝、寝不足の目で会社に行った私に、麻衣がニヤニヤしながら声をかけてきた。
「昨日の夜、LINE既読ついたの3時だったけど、何してたの」
「...何もしてないよ」
「絶対ふるさと納税見てたでしょ」
図星すぎて、反論できなかった。
返礼品が届き始めたのは、それからすぐだった。
最初に来たのは、淡路島から送られてきたインディーゲーム。プレイしてみたら、驚くほど作り込まれていて6時間ぶっ通しでクリアした。
次に来たのは、新潟のレトロゲーム専門店が選んだファミコンミニ復刻版。懐かしすぎて、実家の母に電話して30分語ってしまった。
その次は、山形の木工職人が作ったドラクエのモンスター木彫りフィギュア。手作り感がすごくて、部屋に飾ったら友達が来るたびに「それどこで買ったの」と聞かれるようになった。
でも問題は、ダンボールの量だった。
玄関を開けると、床が見えない。リビングもダンボールの山。ベッドの横にも積まれている。
「これ、全部ゲームグッズなの?」
遊びに来た麻衣が、呆れた顔で聞いてきた。
「うん...14万円分」
「14万円分って、何個あるのこれ」
数えたことなかった。ダンボールを開けながら数えてみたら、22個あった。
「普通に買ったら、いくらだったの?」
計算したら、合計で18万円くらいになった。差額4万円。浮いたお金で、また何か買えるじゃないか。
「ねえ、もしかして来年の分も考えてる?」
麻衣の問いかけに、私は黙って頷いた。
ふるさと納税にハマって気づいたことがある。
返礼品の背景に、人がいる。
淡路島のインディーゲーム開発者は、お礼のメッセージカードを同封してくれた。「地元で開発を続けられるのは、こうした制度のおかげです」と書いてあった。
新潟のレトロゲーム専門店の店主は、手書きのポップを入れてくれた。「このゲーム、地元の小学生たちにも大人気なんです」という一文に、何だか嬉しくなった。
山形の木彫り職人は、制作過程の写真を同封してくれていて、1体作るのに3日かかると知って驚いた。
普通にAmazonで買ってたら、絶対に知らなかった話ばかりだ。
そして今、私は来年の寄付先をリストアップしている。控除上限は変わらないけど、今年見つけられなかった自治体を攻めるつもりだ。
北海道のボードゲーム製作所、沖縄のレトロPC保存会、長野の同人ゲームサークル。全部チェック済み。
「あのさ、それもう趣味の域超えてない?」
麻衣が心配そうに言ってきたけど、私は笑って答えた。
「趣味だよ。趣味で税金安くなるなんて、最高じゃん」
部屋の棚には、22個の返礼品が綺麗に並んでいる。どれも大切な宝物だ。
そして私の財布には、浮いた4万円がまだ残っている。これで次のゲームを買うか、それとも来年の控除上限を確認するために税理士に相談するか。
どちらにしても、もう普通には買えない体になってしまった。
全部、あの日スタバで麻衣が教えてくれたせいだ。感謝しかない。